「福岡型支援」新たなフェーズへ(福岡市による熊本・大分震災への支援:4/21)
「昨日までで福岡市の取り組みについてはあらかた書いた気がするし、今日はもうネタないかな。物資受け入れ拠点の旧大名小学校のことでも書こうか」なんて思っていましたが、やはり福岡市は一味違いました。
4月21日、福岡市は市民からの物資受け入れを停止しました。また、熊本市に対する大規模な物資供給もいったん収束させるようです(熊本市以外の熊本県内の各自治体、大分県の各自治体への物資供給は継続します)。
その上で、福岡市はこれまでに集積した物資を「避難所に直接物資を届けたいというNPOに託す」ことに決めました。提供する物資の品目は、「水、おむつ、タオル、生理用品、トイレットペーパー、ウェットティッシュ、栄養補助食品」です。
福岡市のNPOボランティア交流センターあすみん(wtk@fnvc.jp)宛に、
- 担当者の携帯電話番号(必須)
- 現地での活動予定
- 必要な物資とその量
を連絡し、メールの返信を受け取れば申請完了。旧青果市場で物資を受け取ることができます。
上の画像では、対象を「認証NPO法人・企業・学校など」としていますが、高島宗一郎市長はFacebook上で
平時であれば登録されたNPOなどに限りますが、今は有事ですから、支援したい有志の集まりでも結構です
と明言しています。
高島市長は、地元テレビの取材に答えて何度も「有事です」と繰り返していました。有事であれば、取れる手段はすべて取る。しかも状況に合わせて常に手を打つ。市長はさきほどの物資受け取り団体の認定について、
もちろん団体としての実績など、判断材料もない以上、例えば、最悪の場合、皆さんに届けて頂いた大切な支援物資が横流しされる恐れも絶対にないとまでは言えません。
しかし今は有事です。1000人のうち1人、仮にそういう人がいる可能性のために、999人の善意まで一律に線引きするのは、有事の判断として違うと思いますので、この方法でまず走り出します。
としています。目的のためには手段を選ばない、緊急対応そのものの判断です。また今後の進捗報告*1などについても、Facebookや市長のブログで随時発信していくとのこと。形式をひとまず措いて、スピードを重視していくという明確なスタンスです。
また明日も、このブログを書くネタが尽きないほどに臨機応変な対応が続いていくことを望みます。それともちろん、被災している皆さんに少しでも平穏な時間がありますように。
福岡市による熊本・大分震災への支援(4/20)
続きです。昨日のエントリーでは「今回の熊本・大分震災への支援で、福岡市はこれまでとは違うアプローチをしようとしている」というお話をしはじめたところでした。
「福岡方式=被災した自治体に負担をかけない自己完結型支援」とは何か
昨日の段階で、「福岡方式は違う!」と大見得切ってこんなブログを書き始めたのですが、実のところ「何が違うのか?」というのはまだハッキリとはわかっていませんでした。というのも、事態は常に動き続けているからです(まあ当たり前ですけどね、地震も被災された方々もみんな生きて動いているんですから)。福岡市側は実際に起こしている活動と並行して、常に次の行動フェーズを考えているのでしょう。こちらからはその活動だけしか見えないのですが、それでもそのスピード感は体感できます。
とはいえ、話をはじめた都合上タイムラインに沿って振り返っていきます。福岡市が動かしている現実はブログ主の筆よりはるかに速く、そしてそれが被災者の方のために発揮されている速さであることはむしろ喜びです(遅筆の言い訳としては上等な部類だと思いますが、どうでしょうか)。
さて、昨日のエントリーでは「福岡市は支援者の細かいニーズを把握するために大胆な手を打った。それは……」というヒキでした。この問題を解消するために福岡市役所がまず取った策は、「避難所への物資直送」です。熊本市では、熊本県民総合運動公園を物資の集積地として全国からの救援物資を集めています。しかしあまりにも種類と量が多すぎて、その分類だけで多大なマンパワーと時間をとられてしまう。阪神淡路、東日本などの大災害で繰り返されてきたことです。10トントラック1台分の荷物をさばくのに1時間もかかってしまえば、被災者の方へ物資を送るのも滞り、付近の渋滞も引き起こす。
これを解消するために、福岡市はまず自前で物資の細かい仕分けを行い、搬送も熊本県民総合運動公園を経由せず、直接避難所にトラックを送ることにしました。そのために、福岡市は「前進拠点の設営」を行います。熊本市の北東に位置し、比較的被害が少なかった菊池市(それでも1000人を超える被災者の方が避難しています)に福岡市職員100人を送り込んだのです。福岡市から陸送された物資はこの拠点に集積されます。この報道資料だと「おにぎりマシン」の方が目を引きますが(これも大きな役割を果たしているのは間違いありません)、ポイントは100人の職員と50台の車両です。彼らは担当する熊本市東区の48か所の避難所を回り、被災者のニーズを把握します。そして菊池市の前進拠点に戻ると、そこに集積された物資をすぐに避難所へと届けるのです。
このプロセスで重要なのは、「被災自治体である熊本市がタッチしていないこと」です。熊本市は、市役所こそ健在ですがあまりにも多くのタスクを抱えています。被害を受けた建築物の安全性の確認、電気水道ガスなどライフラインの確保、医療体制の拡充などなど、被災者支援以外にも緊急性の高い要件があまりにも多すぎるのです。これは被災自治体ならば当然のことでもあるのですが、だからこそ福岡市はその負担を軽くしようと動いたのです。高島宗一郎市長は、Facebookで
理想としては、各地域ごとに支援する自治体を決めて、その自治体が被災自治体に負担を掛けずに自律的に避難所を支援していけば、
被災自治体の一ヶ所に集中している過度な負荷を分散出来るのではないかと思います。
アウトソーシング出来ることは出来るだけ早く、他の自治体やボランティアなど外の力に任せることが必要だと思います。
と語っています。しかし実際問題としては、震災発生直後に100人規模の職員を送り込み、有機的な対応をとる体制を作るだけの規模を持つ自治体は決して多くはないでしょう。そういう意味では、福岡市という人口100万人を超える地方中核都市が、ほとんど被災していない状態で熊本市の近隣に存在した、というのは奇跡のような偶然とも言えるでしょう。
そして福岡市が「自己完結型支援」を行う能力を持つ自治体だ、というのはなにも人口規模だけの話ではありません。福岡市は九州の拠点都市として、陸・海・空すべてにおいて強力なハブ都市でもあるのです。陸路では博多駅を経由するJR各線と九州自動車道などの高速道路網があり、海路は年間入港数30000隻・海上出入貨物3000万トンを超える博多港があります。さらに空路では貨物取扱量50000トンに迫る福岡空港を持ちます。そして最大の特徴としては、この陸・海・空の輸送拠点がわずか2.5㎞の距離にあり、相互に活用できるということなのです。緊急度と物資の量に応じて最適な輸送手段を選び、ベストな形で物資を届けることができます。
もちろんすべてが順調に進んでいるとはとても言えない状態なのはよくわかっていますが、それでも福岡市は自らのポテンシャルを十全に生かした支援に取り組んでいるのです。福岡市では義援金や物資の直接持ち込みはもちろん、物資の郵送での受け入れも行っています。毎日アップデートされるウェブサイトをぜひご覧いただき、できる限りの支援をしていただければありがたいです。
福岡市による熊本・大分震災への支援(4/19)
9万人の被災者が避難所生活を続ける熊本・大分震災
2016年4月14日に発生した熊本県・大分県を震源とする群発地震は、熊本県内では4月19日時点で47名の犠牲者、1100名以上の負傷者を出す大きな震災となっています。
そんな中で、クローズアップされはじめているのが自宅を追われて避難所生活を余儀なくされている方々のこと。特に今回の地震では、4月14日の前震では損壊しなかった建物が、4月16日の本震で一気に倒壊し「できれば自宅で夜を過ごしたい」と思っていた方々が犠牲になるという、痛ましい出来事がありました。今後も同程度の地震が起きる可能性が高いとされ、4月19日現在避難生活を送っている9万人を超える被災者の方々が安心して帰宅できるめどは立っていません。
避難所への物資の安定供給は、東日本大震災でも大きな課題となりました。今回の熊本・大分震災でも、道路や鉄道の損傷による「物資の流入」よりも、各避難所に必要な物資が届いているかどうかという「供給」で問題が起きつつあります。
そこで立ち上がったのが、九州最大の都市・福岡市です。
「福岡方式」は自治体による災害援助の新スタンダードになるか?
今回の震災支援において、福岡市は非常にダイナミックで臨機応変な支援を試みています。このスタイルならば、皆さんが送った物資が集積所に積みっぱなしになることはなく、速やかに必要とされる被災者の手元に届きます。なにか物資を送ろう、というときに二の足を踏んでしまうのがこれではないでしょうか。「これ、ちゃんと必要な人のところに届くの?」「そもそもこれ、余計なものじゃない?要るの?」正直ブログ主も、東日本大震災ではそれが不安で、「現地の避難所に行く!」という人に託したり、Amazonのほしいものリストから送るというやり方に落ち着いてしまいました。確実ではありますが、スピード感に欠ける支援だったのは間違いなく、悔いが残っています。
では、今回の福岡市のやり方はなにが違うのでしょうか。
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